博物館資料のなかの『富士山』
葛飾北斎 冨嶽三十六景
20:遠江山中(とおうみさんちゅう)
遠江国(静岡県)の山中で、巨大な材木に乗って上から、あるいは材木の下から大鋸を挽き、鋸の目立てをする木挽き職人たち。これらの職人の姿態は、実は鍬形寫ヨ(くわがたけいさい)の「近世職人尽絵詞」から引用したものである。職人のモチーフを富士が眺められる高台に配置し、材木を画面の対角線に置いて、材木と支柱で相似形の三角形を作り出し、北斎独自の画面に仕上げている。焚き火の煙には、輪郭を摺り残してぼかしを入れた木版画独特の表現がほどこされ、雲ひとつない青空の高さを強調している。